激動の西欧に生きて(井坂実樹さん)
井坂 実樹さん/Ms.Miki Isaka
(専攻楽器フルート/flute)
[ 2016.03.16 ]
学校名:パリ地方音楽院大学院
ロームミュージックファンデーション 奨学生の井坂実樹です。
昨年に引き続き、奨学生として勉強させて頂けることを心から光栄に思います。
奨学生として留学する2年目の今年は、ミュンヘンで行われた国際コンクールから始まりました。
丁度その時期はドイツが移民を多く受け入れると決めたばかりで、ミュンヘンの駅は物凄い数の難民と、彼らのための多数のテント、頻繁に行きかう警察のパトカー、救急車などで騒然としておりました。自国へ戻れず、どんな思いで来たのか、そしてそのすぐ傍で芸を競う我々は、一体何ができるのか。コンクール会場へ通う毎日、ずっと考えておりました。
悩みながら受けたコンクール中、演奏をお聴きになったお客様から多数お声がけ頂きました。こんな激動の今だからこそ、音楽はきっと必要だと、提供する側からではなく需要する側から求めて頂けることが、本当に嬉しく、救われた気が致しました。
<ミュンヘン中央駅駅前の様子>
それからパリへ戻りましたが、シャルリ・エブロの記憶もまだまだ真新しいこの時期に、より一層凄惨な出来事が起こってしまいました。
テロの1つがあった10区には毎日練習に通っており、事件当日もたった3時間前までは普通に歩いておりました。
いつもと全く変わらない景色でした。たった数時間でこんなことになるなんて、一体誰が想像できたでしょうか。
その後、元クラスメイトの女の子がバタクランで犠牲になったことも知りました。
今でも思い返すと悲しくて、悔しくて、そしてどうしようもない恐怖で体が震えます。
別の友人は、テロのあった通りに住んでおり、目の前の道で7人が犠牲になったと、うっすら涙を浮かべながら生々しく語ってくれました。
けれど最後には「それでも人生は続いていくんだよね」と目の奥にしっかりとした意思を持って言う彼女の強さに、私は恐怖に竦んでいてははだめだと教えられました。
<République広場の様子>
複雑な思いを抱きながら、テロから4日後、ジュネーブで演奏のお仕事をして参りました。
大きな銃を抱えた軍人たちに見送られ、パリから電車で3時間。まるで別世界のようにゆったりとした時間の流れるこの街で、一人の演奏家として、プロとして、音楽に集中することだけを心掛けて演奏して参りました。
お客様の一人から、「君が音楽だね」とお声がけ頂いたことは、きっと一生私の宝物です。
留学し始めて4年目、自分がこれからどこへ行くのか、まだまだ暗中模索です。
けれどこちらへきて一番学んだことは、生きることに懸命になるということでした。
それは自分が本当に幸せだと思う時間をより多く作ることだということを、こちらの友人たちに教えて貰いました。
楽しい時に全力で楽しみ、努力する時には全力で努力する。
一つ一つの行動に集中する彼らの立ち居振る舞いに、目を見張る日々でした。
さて、これからどうしていけばそういった理想に近づけるのかが目下常の問題なのですが…。
とにかく目の前の課題に集中することが、先へ繋がる唯一の道なのだと思います。
これからのオーディションやコンクールなどで少しでも良い結果を残せるよう、やるべきことを全力でやっていきたいと思います。