奨学生レポート RMFレポート インタビュー

私の『五年間の休暇』(早坂牧子さん)

早坂 牧子さん/Ms.Makiko Hayasaka
(専攻楽器音楽学/musicology)

[ 2014.10.1 ]

学校名:ブリストル大学

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の早坂牧子です。

早いもので、博士課程もいよいよ終盤戦、来年3月末の論文提出に向けて、昼夜を問わずひたすらパソコンに向かう日々が続いています。

早坂さん

初めてイギリスの地を踏んだ日から丸五年が過ぎた今、楽しかったこと、大変だったこと、できるようになったこと、力及ばず悔しかったこと、様々な思いと共に、これまでの出来事を振り返っています。

ふと、小さな頃わくわくしながら読んだジュール・ヴェルヌの小説『二年間の休暇』(十五少年漂流記)のことを思い出しました。

無人島に漂着した十五人の少年たちが、力を合わせて未知の環境を切り開き、逞しく自分たちの生活を築いていく――彼らの物語ほどドラマチックではありませんが、それまで縁もゆかりもなかった土地へ来て、時に部外者として暮らすことの難しさと向かい合いながら、その国の音楽について集中的に学び自分の言葉で書くという留学生活は、私にとって、出会い、発見、とまどい、失敗とちょっとした冒険の連続でした。

手に汗握る思いをしたことも、一度ならず二度三度…

 

写真①イギリス学会初参加の地、オックスフォードにて

(写真①:イギリス学会初参加の地、オックスフォードにて)

 

写真②クライスト・チャーチでの演奏会

(写真②:クライスト・チャーチでの演奏会)

 

ブリストル大学で取り組んだ博士論文では、イギリスの様々な世俗施設で発達したオルガン演奏会の慣習が、大衆の嗜好と伝統的なオルガン音楽との間で葛藤しながらも、レパートリーの性質にある種の洗練された「軽さ」を獲得することで広く聴衆に受け入れられていった過程を論じています。

タウンホール、水晶宮、水族館、温室、映画館、ラジオ放送と、1850~1950年代のイギリス文化を代表する大衆娯楽の場を、オルガンというフィルターを通じて一挙に眺める試みです。

扱う範囲が広く資料は膨大、そのくせ肝心な部分の資料が残っていないことが多く、調査と論文執筆は想像をはるかに超えて大変でしたが、常に励ましの言葉と適切な助言を惜しまず下さる指導教官に支えられて、何とか諦めずに続けることができました。書く過程が辛く苦しいものであっても、ついに自分の言葉で何かを言い表せたとき、世界で自分しか知らない真実を見つけたとき、過去に生きた人々の思いとつながったように思えたときには、やはり格別の喜びがあります。

 

写真③資料を求めて通った大英図書館(写真③:資料を求めて通った大英図書館)

 

また、各地のいろいろなオルガンを実際に弾いてまわり、この国のオルガン文化を支えるたくさんの人々と交流できたのは、何ものにも代え難い体験でした。イギリスではアマチュア文化が高度に発達していますが、オルガンの世界も、学生、愛好者からプロフェッショナルまで非常に層が厚く、試奏会、勉強会、見学ツアーなどの催しも盛んで、皆が一緒になって文化を盛り上げていこうという意識が強く感じられました。

そのような機会を通じて知った、イギリスの人々の懐の大きさと、他者を尊重する姿勢は、この国のオルガンが持つ、丸く、豊かで、エレガントで、包み込むような優しい音色とつながっているように思います。

 

写真④ブリストルのオルガニストたちと(写真④:ブリストルのオルガニストたちと)

 

写真⑤研究している作曲家ウィットロックの弾いた、ボーンマス・パヴィリオンのシネマ・オルガン(写真⑤:研究している作曲家ウィットロックの弾いた、ボーンマス・パヴィリオンのシネマ・オルガン)

 

イギリスのオルガンという一点を見つめて過ごしたこの五年間、壁はいくらでもあり、もう書けないと泣き言が出るのもしょっちゅうでしたが、日本の生活から離れてひたすら自分だけの研究の世界に遊ぶことを許された、人生で最高の「休暇」だったのかもしれません。

厳しくも充実した冒険の日々を過ごせたことへの感謝の気持ちを込めて、最後の執筆作業を進めていきたいと思っています。

 

留学中、ローム ミュージック ファンデーションより二年間に渡る奨学金のご支援をいただいたことで、各地公文書館での調査に加え、遠隔地で開催される勉強会・オルガン講習会への参加など、活動の幅を広げることができました。

ここに改めて厚く御礼申し上げます。

 


他のことに気を取られず純粋に研究に没頭できたようですね。私たちの支援が役に立っていることはうれしい限りです。論文提出が大変だとは思いますが、良い物ができるよう祈っています!