広上淳一さん、佐藤彦大さんにインタビューしてきました!
インタビュー
[ 2014.09.22 ]
2014年9月14日開催、京都の秋音楽祭2014オープニング記念コンサートに出演された、京都市交響楽団の常任指揮者 の広上淳一さんと、2009年度~2012年度ローム ミュージック ファンデーション奨学生だった佐藤彦大さんに、2014年9月12日のリハーサル後にお話を伺ってきました。
まずは広上淳一さんへのインタビュー。
<広上淳一さんのプロフィールはこちら>
(以下、敬省略)
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Q.今回の演目は交響曲第5番「運命」、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」とベートーヴェンの「ダブル5番」となっていますが、プログラミングの意図は?
広上:実はベートーヴェンが好きで、私の誕生日が5月5日なんですよ。(笑)これは偶然ですが(笑)
意図としては、このコンサートはお客様にも喜んでいただき、満席になってほしかった。
一般の聴衆の方にとってこのプログラムであれば知っているし、ハッピーになってほしいという意味合いがありました。
<ダブル5番の調性の関係についてピアニカを吹いて説明>
Q.今回の佐藤さんとの共演ですが、リハーサルではいかがでしたか?
広上:良い感じでした。
佐藤さんとは学生時代に共演して、ヨーロッパに連れて行ったりしていましたが、その頃から頭角を現していた男でした。
この曲は初めて演奏するということで緊張はしていたんでしょうが、ちゃんと勉強してきていてオーケストラも好感を持って演奏していました。
Q.2008年から京都市交響楽団の常任指揮者、2014年からは併せてミュージックアドバイザーにご就任され、最近の定期演奏会はチケットが毎回完売し、とても大盛況でコンサートも楽しい雰囲気です。
この約6年間の京都市交響楽団はご就任当時と比べて何か変わったと感じる所はありますか?
広上:今までなかなか楽しそうに演奏するプロオーケストラはなかったでしょ?
なぜならプロは楽しそうにしちゃいけないって思いこんでいた時代があった。
昔は寿司屋の大将が仏頂面で「俺の寿司が食えねえなら帰ってくれ!」というような寿司屋が本物だと思われてきたけど、今ならそんな店は潰れますよ。
オーケストラもそう。僕らはお金を払って来て下さるお客様に楽しんでもらうのが仕事なんだから。
京響はもともと能力のあったオーケストラなので、僕が何かした訳ではないんです。
ただ褒めただけなんです。練習もリラックスして行っています。
でもこれは彼らにもともと潜在能力があったからこそで、能力がなければ崩壊するだけなんですよ。
Q.今後、広上さんとして、また京響として取り組んでいきたいことは何かありますか?
広上:今年から高関健さん(常任首席客演指揮者)と下野竜也さん(常任客演指揮者)という二人にわざわざ「常任」という言葉を付けて指揮者に就任してもらったのは、彼らに「常任指揮者」という気持ちでやってほしいという意味なんですね。
もう僕一人の時代じゃない所までオーケストラが成長したのと、私には出来ないこと、日本では高関さんしかできない、下野さんにしかできない能力を持っていて、すごい能力を持つ指揮者を二人集めたことで、一つの役割は終わったと思っています。
一番望んでいるのは、今後先行きがわからない社会の中で「音楽」ということが出来ない国にだけはならないように。
ロームのように企業がオーケストラを支えたい、一つの文化として支えたいと言ってもらえる時代が未来永劫続いて欲しい。
そうなるために魅力を発信するオーケストラであり続けるように下地を作れば僕の役割はほぼ終わり。
そして僕の次の世代にバトンを渡していければと思っているんですね。
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続いて、佐藤彦大さんへのインタビュー。
<佐藤彦大さんのプロフィールはこちら>
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Q.ピアノを始めたきっかけを教えてください。
佐藤:幼稚園の頃、先生が讃美歌の伴奏をよくしていたんですね。
もともと鍵盤楽器に興味があったので、それを聞いているうちにレッスンに通うようになりました。
それから、芸術鑑賞教室でトルコ行進曲が演奏されているのを聞いて、ピアニストになろうと思いました。
Q.なるほど。小さい頃から音楽自体が好きだったわけですね。
佐藤:そんなことないですよ!(笑) たとえば人前で歌うことなんか、すごく苦手でしたね。
今では友人とカラオケに行ったりして、何ともないですけどね。(笑)
Q.そうだったのですね!それからは第76回日本音楽コンクールで優勝されたり、国際コンクールでも優勝されました。コンクールはいかがでしたか?
佐藤:日本音楽コンクールを受けたときは、(優勝できるとは思っていなくて、)今後このコンクールをいったい何回受けるんだろうと思ったんです。
そして、優勝してからがとても大変で。
翌年からとても多くの演奏会の機会をいただいたのはいいのですが、レパートリーがない。焦り狂って譜読みをして(笑)、必死にレパートリーを増やしたのを覚えています。
イタリアのコンクールで優勝した時は、環境が苛酷でしたね。(注:コンクール期間中、佐藤さんに与えられた練習用楽器は電子ピアノだけ)
そこで、どんな環境でも自分をコントロールしてやらなくてはいけないと学びました。
Q.それからはベルリンに移り、現在ではロシアのモスクワ音楽院に在籍していらっしゃいますが、海外生活はいかがですか?
佐藤:ベルリンは優雅でしたねぇ。(笑)
いろんな不安がある中で、先生の愛情こもったレッスンや、住んでいた家が良かったり!(笑)
いろんな演奏会を多く聴けたのも良かったです。
モスクワは、一層厳しいですね。追い込まれて必死になっている感がベルリンよりも強い。
たとえば、今はグループレッスンもしていて、そこでは生徒たちがお互いの演奏について熱いディベートをしているんです。
先生も、みんなに言う手間が省ける。(笑)
Q.なかなか珍しいレッスンですね。ところで、レパートリーに変化はありましたか?
佐藤:ロシアで他国の作曲家の曲を弾くと、お客さんから邪魔が入るんです。(笑)
でも、もともとベートーヴェンなどの古典に偏っていたレパートリーも、ロシアものをするようになって偏りが解消されましたね。
また、ショパンも前は嫌いだったけど、今は楽しく弾いています。
Q.なるほど。今回はベートーヴェンの「皇帝」ですが、いかがですか?
佐藤:実はこの曲嫌いだったんです。雰囲気もだし、音階もアルペッジョも多いじゃないですか。(笑)
でもいざ勉強してみると面白いし、演奏家としての基礎部分も鍛えられましたし、この曲から得たものは大きかったですね。
Q.今日のリハーサルはいかがでしたか?
佐藤:とても楽しかったですね!やっぱりピアノ伴奏とは違いますね。明後日は大丈夫でしょう!
Q.心強いですね!演奏を楽しみにしています。では、最後にこれから奨学生になる方や音楽家を目指す方に一言お願いします。
佐藤:僕がそんなこと言うんですか!(笑)
まだそんな上から言える立場ではないですが、そうですね、感謝の心を忘れないでほしい。
奨学金をもらうことを当たり前と思わずに、もらえなかった人やコンクールで優勝を逃した他の人たちの思いも背負って頑張ってほしい。
育ててくれた親のことも忘れずに。そうしたらみんな真面目に勉強すると思うんですよね!(笑)
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広上さんも佐藤さんもリハーサル直後でしたが気さくにお話をいただくことが出来ました。ありがとうございました!
そしてコンサート当日はまさに秋晴れ、そして完売御礼という中での演奏となりました。広上さんは、インタビューの気さくな雰囲気とはうって変わって、気迫溢れる指揮によって導かれた素晴らしい音楽で観客を魅了し、佐藤さんは京都市交響楽団とピッタリ息の合った荘厳な演奏を披露し、京都秋の音楽祭のオープニングに相応しいコンサートとなりました。
アンコール前には広上さんがご挨拶され、その中で佐藤さんがローム ミュージック ファンデーションの奨学生であったことから、
「ローム ミュージック ファンデーションの奨学援助制度は、世界的にも有名な音楽家を輩出し、素晴らしい成果を出しています。このように継続的に音楽家の支援をすることは私たちにとって大変重要であり、心からお礼を申し上げたい」
とおっしゃっていただく場面も。
1991年の設立以来実施してきた奨学援助の一つの成果を実感したコンサートでした。
写真提供:京都コンサートホール(写真撮影:佐々木卓男)